イタリアの教育
平成13年度教職員海外短期派遣(長野県団 第201団)
視察報告
イタリア教育視察で考えさせられたこと
長い話ができない人は能力がない イタリアでは「長い話ができない人は能力がない」と見なされるという。 学校では自分の考えを発表することを重視しており、授業の中で意見を出し合う授業を何回も見た。他人の考えを聞いてそれについて意見を述べる授業を行っていた。 子ども達に聞く姿勢と自分の考えを発表する能力がついていることを感じた。 フランス語から英語に変わったイタリアの外国語教育 学校の先生方は英語を話せない。逆に中学の子ども達は、日本の子ども達と同じかそれ以上に英語を話せる。不思議に思っていたら、先生方との懇談の中で氷解した。 20年ほど前まで、学校での外国語教育はフランス語をしていたそうだ。しかし英語の方が国際的に多く使われていることから、外国語教育は英語に変えたそうだ。 3・4年前から小学校でも保護者が希望すれば英語を学べるようになり、今回の訪問した小学校でも英語教育に取り組んでいた。 |
黒板の前で説明する高校生 |
幼稚園で一緒に活動する障害児 |
マンジャーレ、アモーレ、カンターレ イタリア人の好きなことはマンジャーレ(食べる)、アモ−レ(愛する)、カンターレ(歌う)だそうだ。中学校の国語(イタリア語)文法の授業で動詞の語尾の変化について学習していた。黒板に書かれたのがマンジャーレであった。日本で英語の授業で良く出てきた動詞はLern(学ぶ)とWrite(書く)だったような気がする。 イタリアの障害児教育 今回の視察で大きな違いを感じたのが障害児教育であった。イタリアでも以前(30年ほど前)は障害児を分けて教育していたが、現在は普通学級の中で指導している。だから現在特殊教育諸学校もないし、特殊学級もない。 「過去において障害児を分けて指導する方法を取っていたことは間違いであった」と否定されている。 現在の方法は障害の程度によってハンディキャップを点数であらわしている。例えば目が見えない場合、子ども1人に1人の先生がつく。知的障害児には3人の子どもに1人の先生がつく。 一般の学級は28人が最大人数であるが。障害児受け入れ学級は20人を上限とし、教員が1名加配されていた。 「ハンディキャップ児を隔離することが許されるのは問題だ」といわれた言葉が胸を刺した。 |
鉄柵で囲まれた学校 小学校や中学校では登校時間が終わると校門は閉じられ鍵がかけられる。学校の敷地の周囲は鉄柵や塀で囲まれ、教師も子どもも自由に出入りはできない。用事のある保護者が閉められた校門のインターフォンで連絡を取りやっと中に入れてもらっている姿も目撃した。 児童・生徒が学校にいる間は学校の責任であることを形の上ではっきり区切られていることを実感した。 |
閉じられた校門とインターホンで話す保護者 |
入口で子どもを待つ保護者 |
子どもを送り迎えする保護者 小学校では保護者がすべて登下校の送り迎えをし、中学校でも遠距離の生徒は保護者が送り迎えをする。近距離の生徒のみが歩いて登下校する。 学校の外の安全管理は保護者の責任であることも明確になっている。 授業は基本的に午前中に5時間授業をして13時30分で終了する。その時間には校門の前に自家用車が並び、お迎えの保護者が集まる。保護者の昼休みは日本に比べると長く、迎えに来る時間も十分にあり、さらに家族で一緒に昼食をとるのが普通だそうだ。(もちろん小中学校には給食がない) |
修了試験 小学校は5年制であるがその5年終了時に国語と算数の2領域に関する筆記試験と口述試験がある。中学校3年終了時のも同様に国語、英語、数学の3教科について筆記試験と口述試験が、他の教科については口述試験が行われる。 中学修了試験の不合格者は7〜8%という。 高校ではそれぞれの学年が修了したときに進級試験があり、高校5年間の修了試験(マトゥリタ)は全国共通の統一テストが一ケ月にわたって行われる。教育省から2問、もう1問は校内の委員会が作成し、筆記試験と口頭試験が行われる。 大学は高校の修了試験(マトゥリタ)に合格していれば誰でも入れる。その上授業料は無料である。 高校も大学もともに中退が多いようだ。参観した商業高校でも現在2年までが義務なので、それを終えて2年でやめる生徒が多いそうだ、卒業するのは入学生の半分くらいだという。中退した生徒は就職したり、他の専門学校に移るとのことであった。 |
日曜日教会から出てくる人々 |
教卓の横の机で学習(左側の子ども) |
学校ですべき事は知識を身につけさせること 「学校ですべき重要なことは何か」という質問に対してどの先生も「知識を身につけること」と明確に言う。学校ですべき事と家庭ですべき事がはっきりしている。 若い夫婦は両親と別居している場合が多いが、食事や遊びに出かける時は両親に子どもをお願いする。祖父母は孫の面倒をよく見、躾をしっかりし、料理の味など文化や伝統・習慣を孫に伝えるとの話であった。 日曜日にローマからラティーナに移動する途中、マリーノの町で休んだとき、休憩場所の近くに教会があった。休んでいると教会の戸が開いてぞろぞろとたくさんの人が出てきた。家族そろって教会に行っている人が多かった。学校でも「宗教」の授業がある。宗教の授業に参加するかどうかは保護者のサインがいるそうだが、ほとんどの子どもはその授業を受けているという。生き方のバックボーンとしてキリスト教が重要な位置を占めているのだろう。 個人指導を受けることを誇りに思っている 中学校の授業参観をしたとき、廊下で数学の計算の個人指導を受けている生徒がいた。聞いてみると数学の基礎が身に付いていないので特別に個人指導を受けているのだという。「一人だけ廊下で個人指導を受けることは子どもにとっていやな感情を持たないか」との質問に、「個人的に指導を受けるのは誇りに思っている」と先生方はおっしゃっていた。 教室の授業でも座席は自由だが、一般の生徒の席とはなれて教卓の近くに二つほど生徒机があって、そこに座っている子どももいた。その子ども達も個人指導を受けるためだという。 訪問した小学校では時間割をA・Bの二つに分けてあることである。A時間割は8:15〜11:15、B時間割は11:15〜4:30とし、Aでは国語、地理・歴史、算数などの教科の指導を担任の先生が行う。Bでは、コンピューター・粘土・音楽・体育・外国語などの実技的な教科学習を複数担任で指導するようにしているが、このB時間割の中で学習困難児の指導もしているという。 |
不登校がほとんど無いイタリア ナポリ県では8%と聞いているが。国の平均では0.8%である。ラティーナ県でも少ない。いじめや非行は聞いていない。 不登校にはカウンセラーが対応する。保護者が行って相談を受ける。 イタリアでは、親が子どもに仕事をさせるために学校にいかせない不登校が多い。 区域内の小学校と幼稚園をすべて管理する校長 今回訪問した小学校の校長先生は4校の校長をしているとのこと、そうなってきた経過もお聞きできた。1960年代にイタリアの教育体制が改正された。その時義務教育の体制も新しい体制になり、各地区に小学校が配置された。その後人口増加によって学校も増設されたが、それぞれの学校に校長を置かず、地区の小学校すべてをひとりの校長が管理しているとのことであった。 女性が多い学校の教員 学校の先生は幼稚園から高等学校まで圧倒的に女性が多い。私たちが訪問した小学校では専任教員数77人中76人(校長を除く)が女性で99%、中学校では63人中47人で75%、商業高校では86人中61人で71%、農業高校では112人中42人で37%となっていた。 これらの原因はさまざまあると思うが、まず給料が低いことも感じた。農業高校を出た技術者が300万リラ(約18万円)に対し教員の初任給が200万リラ(12万円)だそうだ。 逆に利点として多くの先生方は13:30分には仕事が終わり、家に帰って家事や子どもの面倒が見られること、アルバイトもOKとのこと。そんなことから女性にとっては人気職種になっていて、倍率も高いようだ。 懇談会の折、出席者から授業が終われば家に帰れるが仕事を家に持ち帰ることも時々あるとのことだった。このへんは日本にも似ているなと感じた。 校長については男女半々くらいだ。 |
![]() 右から通訳、校長先生、教頭先生、教務主任 |
立ってあいさつをしてくれた高校生 |
しばしばストライキをする教員 商業高校での授業中に用務員さんがまわってきて先生と連絡を取っていた。不思議に思って聞いてみると「明日はストライキのため授業がない」と連絡に来たとのこと。 給料を上げたり、待遇改善を要求した教員組合のストライキはたびたびあるとのこと。 給料は契約した金額で定期昇給はないとのこと。資格(管理職など)によって決まるとのこと。契約社会になっているのだなと感じた。 一校に40年も勤務する教員もいる 教職員の異動は本人の希望によって行われる。希望先があかない限り異動はできないとのこと。逆に異動希望を出さずに40年同一校に勤務し、親子二代を教えることもあるそうだ。 定年は65才または40年勤務と新しい法律で決まった。 有料の社会教育活動 ラティーナの宿泊したホテルの近くに体育館があった。夜遅くなって通りかかったらこうこうと明かりがついて中学生らしき子ども達がバレーボールなどのスポーツをしていた。 社会体育が盛んだなあと感じたが、通訳の方のお話によると、家に帰ってから子ども達は社会教育としてスポーツのみならず音楽や美術をしているとのこと。しかもそれはすべて有料と言うことであった。 高いお金を出せば力のある指導者を呼ぶことができ、指導者に認められれば専門の学校に推薦してもらえるという。 イタリアではスポーツはサッカーとバレーボールが盛んでそのプロの道になるのは子ども達の夢である。 |
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